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2017. 11. 20
「美術の窓」田邊会長の連載 第2回
「美術の窓」vol.411 12月号 P68〜P69

矛と盾

連載 第2回 虎徹
 
 「虎徹」とは、中国、前漢時代の将軍李広の「虎と見て石に立つ矢のためしあり」の逸話に由来する。自身の母を殺めた虎を憎んだ李広は矢を放ってその虎を仕留めたが、矢が奥深く刺さった先は、実は虎に似た岩であったという。一念を込めて行えば、いかなることも達成できるという故事としても有名である。そこから着想を得た今作。獰猛な人喰い虎の身体に矢が深く突き刺さり、蹲まっている。その形姿はさながら巨岩のようである。アイボリーブラックに陶芸用の古代呉須を重ねて描かれた矢羽根。その輪郭線上に覗く白色が鈍い光となって、虎の息の根を止めるこの矢の存在を主張する。一本の矢によって、分かたれる生と死。赤黒く重々しい背景は、血の匂いを感じさせるような生々しさがある。李広は親の敵を取りたい一念から、岩を虎に見紛った。その気概が岩に命を吹き込み、虎の魂をも宿らせたとも言えるだろう。そういったアニミズム的世界観が生と死のせめぎ合いの中で展開している。