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2018. 01. 20
「美術の窓」田邊会長の連載 第4回
「美術の窓」vol.413 2018年2月号 P204〜P205

矛と盾

連載 第4回 愛郷
 
 明治37年(1904)に横浜正金銀行本店として建てられ、重要文化財に指定されている神奈川県立歴史博物館(通称・県博)。今作では、横浜を代表する近代建築の一つをモチーフに、曲線を描くドーム建築を大きくデフォルメして描いているが、実はこの部分のみ当初のものではない。関東大震災時に火炎で消失し、昭和39年(1964)に復元の計画を開始し、昭和42年(1967)に完成したものである。
 濃密な寒色を基調にした複雑な色、ぼんやりと浮かび上がる県博の形。それは開港後の近代化の真っ直中、急速に変わっていく街並を見届けた当初の姿か。あるいは、東京オリンピックの開催年より復元に着手されて、戦後の復興から発展を遂げる街をずっと見守り続けている現在の姿か。それとも、焼失から復元までの期間、実際はそこに無くとも、横浜の人々の記憶の中に強く存在していた姿であろうか。幻像を思わせるその姿は鑑賞者に自由に想像を委ねが、それはいずれも横浜の人々の心に寄り添う存在であったことには変わりはない。横浜在住の作者自身にとってもそれは例外ではないだろう。丹念に絵具を重ねて生まれる手触りのあるマチエールを味わい深い色彩は、その朧気な存在をたぐり寄せるようだ。キャンバスに田邊の揺るぎない愛郷心を滲む。