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2018. 02. 23
「美術の窓」田邊会長の連載 第5回
「美術の窓」vol.414 2018年3月号 P68〜P69

矛と盾

連載 第5回 三宝
 
 幽かに赤みを帯びる黒を背景に、赤の色彩が激しく躍動する。その蔭からこちらを窺うように顔を出している一羽のコノハズク。昼間は褐色の羽が擬態色となって木の葉と一体化して見える、「ブッポウソウ」と鳴く夜行性の鳥だ。『性霊集(しょうりょうしゅう)』採録の詩に「三宝の声一鳥に聞く」と詠まれる。山林の草堂で座禅をする空海が聞いた、暁の頃の静寂を突き破る「三宝の声」の主こそ、この鳥である。
 自然環境の変化によって生息数が減っているのはコノハズクも例外ではない。かつて、自然と人の暮らしは密接に結びつき、渾然一体となって共生していた。鮮烈な赤色の激しいストロークは森に生きるものたちが抱く自然破壊への怯えや怒りの感情の発露か、あるいは、環境を脅かす存在の表象かもしれない。独り鳴く画中のコノハズク。失われゆく自然を憂うよかのような声が、夜の闇に響き渡る。

*『性霊集』・・空海の漢詩文集。編者は弟子の真済。平安時代初期成立。正しくは『遍照発揮性霊集』という。

*三宝・・仏・法・僧。仏と、仏の教えである法と、その教えをひろめる僧。仏教徒が尊崇すべき基本であるので、世の宝に譬えて三宝と称する。

 

関連サイト:
田邊哲人 作品集