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2018. 05. 23
「美術の窓」ベストセレクション2018に田邊会長が選ばれています!
美術の窓」vol.417 2018年6月号 P90〜P91

ベストセレクション2018

「美術の窓」では、公募展を中心に画廊やデパートなどで発表された様々な作家・作品に注目し続けています。今回は、その中から注目した作品のその魅力や作品に込められた想いを、「中特集」としてご紹介します。


田邊哲人

生命賛歌

 奥深い色彩と濃密なマチエール。画面の中で揺らめくような、花の姿形。それはまるで魂の表象のようだ。己の心の中のイメージを手繰り寄せながら、田邊は幾度となく絵具を塗り重ねていく。それは命を吹き込むような感覚に近いのかもしれない。まさにそうして生まれたこの花たち。右頁の「花」は芳しい香りを放つ可憐な姿というよりは、どこか土の匂いを感じさせ、逞(たくま)しい印象すら覚える。そして、その内側からあたたかな光を放つかのように生気が感じられ、この花には確かに生命感が漲っている。たとえ萎れても、踏まれたとしても、そこに存在し続ける野花のイメージ。描かれるのは”生”への強い執着だ。刹那的に咲く花の散り際よりも何よりも、今、生きているということ。それこそが生命の美しさなのだという熱い想いが画面上に溢れ出している。
 左頁の「花」の、岩のようにごつごつとした絵肌と、青味がかった紫。画面上には何層も塗って削ってを繰り返した形跡が窺える。紫や青以外にも非常に複雑に色彩が折り重なり合って、その空間を形成している。田邊は紫を基調とした背景の作品をいくつも制作しているが、今作はその色彩の扱いが出色の出来である。そして、そうした空間においてなお、ここに描かれた花々は埋もれることなく、むしろ強い存在感を示す。どんな環境でも力強くその命を咲かせる野花そのものだ。見目(みめ)だけの表面上の美しさではない、奥底にある根源的な美しさを見つめ、それをキャンバスに表出させる。野に咲き誇る花の命の美しさを讃える、田邊による生命賛歌である。
(佐藤愛美)