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2018. 06. 22
「美術の窓」田邊会長の連載 第9回
「美術の窓」vol.418 2018年7月号 P66〜P67

矛と盾

連載 第9回 異彩を放つ
 
 画面を斜めに横断するかのように、鯉が一匹。存在を強く主張する、極めて豪快な構図である。その姿は王者の品格すら漂わせている。赤、黒、白。輝かしい色彩をまるで帯を巻くかのように美しくその身に纏わせる、絢爛豪華な昭和三色(さんけ)。水気のある絵具の感触が水の中を悠々と游ぐイメージを喚起し、鮮やかで艶やかな姿をありありと描き出す。所々を縁取るように重ねられた橙色の線描は力漲る生命感の発露だ。そして、この鯉のただならぬ迫力の要因の一つは、仮面を付けるが如く顔を漆黒で覆う配色である。錦鯉の品評において、口元に色が付いているのは本来は好まれるものではなかったという。田邊がブラックマスクと呼んで強く拘るこの鯉の色彩構成は、既成概念を打ち破る存在なのだ。古今東西、変化を恐れず、己の信じる道を一心に求める者たちが、時代を変えてきた。この鯉がそうした変革者の表象のように思われる。その気高き姿は鮮麗に燦然として、苛烈なまでに異彩を放つのである。

関連サイト:
田邊哲人 作品集