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2018. 11. 21
「美術の窓」田邊会長の連載 第14回
「美術の窓」vol.423 2018年12月号 P84〜P85

矛と盾

連載 第14回 孝行
 
 ややマット調の明るい朱の色面に配された二羽の烏。その足元には熟れた柿がひとつ、転がっている。今回の主題は「反哺之孝(はんぽのこう)」。すなわち、親の恩に子が報いること。烏が成鳥になった後に親鳥に餌を与えて恩を返すという伝承に由来する。
 二羽は別々の方向を向いているが、それは信頼して背中を預けるような絶妙な距離感を保っているようでもあり、不思議と親と子の深い関係性が窺える。鋭く先の尖った嘴。その身は厚塗りのざらついたマチエールで覆われた、炭のような独特の風合いの黒色だ。さらに緑や青系統の岩絵具がアクセントとなり、烏の存在感を克明に示す。人間に疎まれることも多い烏。しかし、人間だろうと烏だろうと、親が子を慈しみ、子が親に報いるとう情を抱くことには変わりはない。この想いの発露を、画家は烏を媒介にして鮮烈に描き出した。その親愛なる情は文化の別なく、また時代すら超えて、全ての行きとし生けるものたちに通底するのだと、今作は力強く語りかける。

関連サイト:
田邊哲人 作品集