本部Top >> スポチャン NEWS >

2019. 06. 22
「美術の窓」田邊会長の連載 第21回
「美術の窓」vol.430 2019年7月号 P120〜P121

矛と盾

連載 第21回 尽忠報國之士
 
 壬生浪士組(のちの新撰組)の筆頭局長・芹沢鴨。真正面に構える鉄扇に刻まれた「尽(盡)忠報國之士」。金泥などを重ねた渋い光が力強いその文字を荘厳する。
 乱暴狼藉をはたらく酒乱で多くの逸話が残る芹沢を表象するような、荒々しく豪快な筆触。しかし同時にどこか得体の知れない幽玄な雰囲気も漂う。たとえば投獄された時に死を覚悟して辞世の歌(※1)を詠んだと伝わることや、暗殺された後に永倉新八が国家的な損失であるとその死を惜しんだことからは、芹沢が単なる野卑粗暴な存在であったわけではないことも想像される。幕末に生きた一人の浪士のそうした複雑な人間性を、画家は深みのある色彩とマチエールを用いながら画面上に表出させた。墨がかった赤い色面を背景に浮かび上がる大柄な男のシルエットは、さながら仏堂に祀られた不動明王像が如く威厳を放ち、ただならぬ存在感を伝えている。

※1
「雪霜に 色よく花の さきがけて 散りても後に 匂う梅が香」
と詠んだとされる。