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2019. 03. 22
「美術の窓」田邊会長の連載 第18回
「美術の窓」vol.427 2019年4月号 P106〜P107

矛と盾

連載 第18回 今際 いまわ
 
 画面に浮かび上がる、対峙する二人の影。目に飛びこんでくる、鮮紅に染まった曲線。相手に斬り付ける太刀筋をイメージさせるその線はゆるやかな弧を描き、直ぐ様に二の太刀を浴びせる動勢に移るようなモーションを予感させる。徹底して息の根を止めんとするその動き。目にも止まらぬ速さ。油断した刹那、命が絶たれる。切迫した緊張感を観る者に伝えている。
 坂本龍馬に着想を得たという今作。頭部を割られ、為す術も無い英雄の姿。“暗殺”の瞬間を画家の鋭い感性で描出した。赤黒い背景は渦巻く感情を示唆するかのようでもあり、様々な想いが交錯した激動の時代を表象するかのようだ。大政奉還を果たして一ヶ月後に閉じた、僅か三十余年の生涯。画家の描いた龍馬の姿は、今際の時を悟り、静かに死を受け入れるような霊気すら感じられて目を離せない。

関連サイト:
田邊哲人 作品集