本部Top >> スポチャン NEWS >

2020. 03. 31
「美術の窓」田邊会長の連載 第30回
「美術の窓」vol.439 2020年4月号 P90〜P91

矛と盾

連載 第30回 夜半の月
 
 赤と黒が複雑に入り交じった、コクのある色彩。そこに朧気に浮かび上がっている月と、幽かにその姿をみせる荒れ果てた城跡。こだわりの厚塗りで重厚なマチエールと重色がもたらす深みのある色彩によって、そこに存在するものの絶対的なオーラを表出させる独特の表現は画家の真骨頂である。
 土井晩翠作詞、瀧廉太郎作曲による『荒城の月』。七五調の歌詞(今様形式)と西洋音楽のメロディが融合した、言わずとしれた名曲である。世の中の栄枯盛衰を映し出すかのように、静かに地上を照らす夜半の月の光。戦いの最中に儚く散った、幾人もの兵の命の輝きを偲ばせる。朧気でありながらも、強い存在感を示すこの月は、戦乱の世と変わらぬ光で、今までも、そしてこれからも、人びとの営みを照らし、見守り続けるのだろう。

※今回で最終回となります。